▼凶暴な竜を退治する伝説は世界中に数多い。古代ローマにも聖ジョージが悪竜を倒す英雄物語があったようだ。寓話(ぐうわ)集『魔法の糸』(実務教育出版)で知った。聖ジョージは騎士だったのだが、平和な世の中のため活躍の場を見つけられずにいたらしい。国中をくまなく歩いてみたものの、見えたのは畑仕事に精を出す男たちや家事をしながら歌う女たち、元気にはしゃぎ回る子どもたちばかり。
▼騎士であることに誇りを持ち、戦いたいのにその仕事はない。聖ジョージもさぞかし困ったろう。今風に言えばアイデンティティーの喪失ということになろうか。元プロ野球選手の彼も、似たような悩みを抱えていたのかもしれない。覚醒剤取締法違反に問われている清原和博被告のことである。17日に東京地裁で初公判が開かれた。検察側は「引退後も注目される存在でありながら、犯行に及んだ」と論告。罪状認否で清原被告は「間違いありません」と、起訴事実を認めたという。
▼野球に関しては天才肌で、小学生のころからそれ一筋でやってきたというから、膝の故障でプロ野球の仕事ができないとなればつらかったに違いない。自分の存在に自信が持てない毎日でもあったろう。当然のことだが、それは全く言い訳にならない。ところで聖ジョージはその後、騎士だけができる仕事を見つけるため長い旅に出る。そしてついには、とある国を苦しめていた竜を倒し人々を救うのである。清原被告も心の中に巣くった悪い竜を退治することだ。剣ならぬバットで。