▼日本書紀に、舒明天皇在位のころ彗星が現れ、以来、大洪水や宮殿火災、飢饉(ききん)といった異変が次々起こったと記されている。今は異変と彗星を結びつけようものなら一笑に付されるだけだが、当時は因果関係が信じられていたのだろう。1週間ほど前のこと。夜にふと空を見上げると、月の下で、普段は見掛けない大きな赤い星がひときわ強く輝いていた。一瞬、頭に浮かんだのは「何か凶事が」
▼そんなばかなとすぐに打ち消したが、これでは昔の人を笑えない。妖しくも美しい光にすっかり幻惑されてしまったようだ。ところで後で調べてみると、その大きな赤い星は火星だったのである。では、なぜいつもと違って見えたのか。天文ファンならお分かりだろうが、今月31日、火星が地球に最接近するため大きく明るく見えているのだという。「スーパーマーズ」と呼ぶらしい。およそ2年2カ月ごとに起きているそうだ。当たり前だが凶事のしるしなどではなかったのである。
▼火星といえばタコのような火星人が攻めてくる物語を記憶にとどめている人もいよう。現在は人類の移住先として有望視されているだけに、多くの人にとっては少し身近な存在になっているのでないか。谷川俊太郎さんの詩「二十億光年の孤独」を思い出す。「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き/ときどき火星に仲間を欲しがったりする/火星人は小さな球の上で/何をしてるか/僕は知らない」。31日には夜空を見上げ、火星人が何をしているか観察してみるとしようか。