▼視聴者の期待をたがえず、着地をぴたりと決めるテレビドラマの筆頭といえば、『水戸黄門』(TBS)の名が挙がるのではないか。当方になじみ深いのは東野英治郎の黄門様だが、連綿と続いているところを見ると、時代を超えた人気があるのだろう。物語の展開は毎回ほぼ同じ。黄門様一行が旅の道中で悪政や暴力に苦しむ民衆と出会い、その原因となっている代官や悪徳商人を懲らしめる流れである。
▼結末は分かっているものの、「この紋所が目に入らぬか」の決めぜりふで悪人どもがひれ伏すとやはり胸がすく。お家芸ともいえる名シナリオあればこその長寿番組だろう。さてこれは誰がシナリオを書いたのか。安倍晋三首相が消費税増税再延期へと向かう道中記である。まず伊勢志摩サミットで各国首脳に世界経済危機回避のための協調合意を取り付け、次いでオバマ大統領の広島訪問で政権支持に弾みをつけた。その上で間髪入れずの増税再延期と衆参同日選見送り表明である。
▼これだけでは出来レースと見られても仕方がない。そこで麻生太郎副総理兼財務相と谷垣禎一自民党幹事長にご登場願い、首相に異を唱え、熟慮の末、容認する一幕を設けたのでないか。結果として増税推進派のガス抜きにもなり、再延期の道筋を確かなものにできた。役者もそろい、根回しをお家芸とする自民党らしいシナリオだ。まあこれも一つの見方にすぎないが。ともあれ再延期を歓迎する人は多い。大切なのはこのドラマの結末が、誰もが喜べるものになるかどうかである。