▼世界で初めて自動車の大量生産に成功し、米国に一大自動車王国を築いたヘンリー・フォードは「汽車のように速く、そして馬のようにどこへでも走れる乗り物が欲しい」と願っていたそうだ。広大な国土事情に加え、時代の要請もあっただろう。結果としてそれが経済産業発展の原動力にもなった。馬車から自動車、鉄道と、どうやら人間はより高性能な輸送交通手段を求めずにいられない生き物らしい。
▼最近、この輸送交通分野で斬新な技術の発表が相次いだ。幾つか紹介したい。まず「ハイパーループ」である。真空に近い金属チューブの中を磁気空中浮上式の車両を走らせるもの。最高速度が時速1100㌔というから途方もない速さ。SF小説の世界のようだが年内には米国で試験走行が始まるらしい。中国では自動車を下に通行させたまま、道路をまたいで走る大型バスが開発されたそうだ。バス型のガントリークレーンを想像すると分かりやすい。なるほど発想の転換だろう。
▼スイスでは物流網構築が進む。都市の地下に自律型の貨物路線を張り巡らせる計画だ。地上の物流拠点まで運べば自動で目的地近くに送ってくれる優れものである。こうした新たなインフラは生活を大きく変える力を持つ。フォードもそうだったが、人々の「より便利に」の願いがそれを強く後押しする。安倍首相は1日の記者会見で「しっかりと内需を支える経済対策」の実行に力を込めた。成否は人々の願いをうまくすくえるかどうかにかかっていよう。安倍政権の正念場である。