▼米国の作家でジャーナリストのアレックス・ヘイリーは、自らの先祖がアフリカから無理やり連れてこられた歴史を小説『ルーツ』として発表している。これを原作にしたテレビドラマが1977年に日本でも放映されているから、そちらを覚えている人もいよう。アフリカで奴隷商人にさらわれ、船で米国に運ばれたクンタは港で競りにかけられる。「取り立てのホヤホヤだよ!」「ラバみたいに働くぜ」
▼当時の貨幣価値は分からないが、850ドルで農場主に売られたようだ。クンタはその時まだ17歳。1750年代のことである。奴隷として家畜以下の扱いを受ける描写には読んでいて怒りが込み上げたが、もう昔の話。そう思っていたのだが実は勘違いだったらしい。奴隷撲滅を目指すNGOが最近出した報告によると、「現代の奴隷」状態にある人は世界に4500万人以上いるそうだ。しかも増加傾向にある。167カ国中、最も多かったのはインドの1835万人だったそう。
▼意外なことに日本も29万人で25位と上位にいる。昔のように鎖につながれている訳でなく、金銭や暴力、脅迫など、周りからは見えにくいもので自由を奪われているのが「現代の奴隷」の特徴なんだとか。きのう故郷で葬儀が営まれたプロボクシング元世界ヘビー級王者モハメド・アリさんは、カシアス・クレイから名前を変えたとき「あれは奴隷の名前。私はもう奴隷ではない」と言ったそうだ。いまだ世界中にこれだけ奴隷状態の人がいるのでは、アリさんも安らかには眠れまい。