▼ニュースを見て、「またか」と嘆息した人も少なくなかったろう。「イオンモール釧路昭和」で21日起こった無差別殺人である。阿寒町の33歳の男が突然女性客らを切りつけたという。68歳の女性一人が刺されて死亡し、やはり女性ばかり3人が重軽傷を負ったそうだ。不幸にもその場に居合わせ、巻き込まれてしまった被害者のショックはいかばかりか。痛ましいことだが、この種の事件が後を絶たない。
▼容疑者の男には自分の人生を終わりにしたい願望があり、「人を殺して死刑になりたかった」旨の供述をしているらしい。事実とすれば身勝手極まる。「どんよりとくもれる空を見てゐしに人を殺したくなりにけるかな」(石川啄木)。生きていれば、ふとそんな気持ちにとらわれることもあろう。ただ、そこであらためて命の尊さに気付くのが当たり前の人間の姿である。悩みがあったとも伝えられるが、包丁を準備し商業施設で女性ばかりを襲う計算高さには卑劣さしか感じない。
▼思い出すのは東京の秋葉原で2008年、当時26歳だった犯人が7人の命を奪い、10人に重軽傷を与えた無差別殺傷事件である。共通するのは自分の中の空虚を、他の誰かの命で埋めようとする悪質で危険な態度だろう。わがままな破壊欲求をくい止めるすべは何かないものか。これも啄木だが、詩「拳」から一節を引く。「やり場にこまる拳をもて、お前は誰を打つか。友をか、おのれをか、それとも又罪のない傍らの柱をか」。他の誰でもない。打っていいのは「おのれ」だけだ。