▼自分の流儀を貫くハードボイルドな名探偵といえば、レイモンド・チャンドラーの小説に登場するフィリップ・マーロウを忘れるわけにいかない。せりふに味がある。『ロング・グッドバイ』(村上春樹訳、早川書房)にこんな場面があった。ある女性がマーロウに、なぜ安全とはいえない場所に住んでいるのか尋ねる。彼は「安全な場所なんてこの世界のどこにあるだろう」。さらりとそう答えたものだ。
▼まさにマーロウならではの意表を突いた一言だろう。ただ、われわれのような一般人にも、ここから学べることはあるのでないか。それは「安全な場所などない」と思い定めて、常日頃からリスク管理をしておくことである。といっても日本国内で、というつもりはない。ブラジル・リオデジャネイロ五輪に出掛ける際はの話である。8月5日の開幕まであと1カ月を切った。現地の治安は相当に悪いらしい。妊婦の感染で新生児への影響が懸念されるジカ熱の心配もまだあるようだ。
▼今月早々、リオの日本国総領事館が五輪観戦のための安全の手引きを公表した。「世界有数の犯罪都市」に注意を促している。2015年にリオ市で発生した殺人は1205件、強盗が8万1740件。開催期間中も会場周辺では、凶悪な強盗や銃撃戦に気を付けねばならないらしい。路上でスマホは使わない、目立つ服装は避ける、襲われたら抵抗しない―が鉄則だそう。要はリスクを知り自分の身は自分で守ること。日本の流儀を貫くのでなく、リオに入ってはリオに従えである。