▼和田アキ子さんの迫力ある歌声で1972年に大ヒットした名曲「あの鐘を鳴らすのはあなた」は、「あなたに逢えてよかった あなたには希望の匂いがする」と始まる。つい口ずさんでしまう人もいよう。新しい時代への期待を表す歌だが、作詞家阿久悠は著書『歌謡曲の時代』(新潮文庫)で、「暗い時代の中で書いた」と記していた。浅間山荘事件、テルアビブ空港テロと陰惨な出来事が続いた年だ。
▼この歌を思い出したのは、「希望の匂いがする」誰かを求めている今の東京都にぴったり合う気がしたからだろう。東京都知事選がきのう告示された。立候補を届け出たのは新人21人だったそうだ。見ると、ジャーナリスト、自民党の元防衛相、元総務相の前岩手県知事などなかなか多彩な顔ぶれ。悲惨な事件が相次いだわけではないが難問は山積している。舛添要一前知事の辞職に絡み都政は混乱し、東京五輪準備のドタバタも火はくすぶったまま。首都直下型地震対策も気になる。
▼本道は投票に関係ないとはいえ、日本の首都の顔選びである。無関心ではいられない。「都」より「党」のことを優先させるかのような政治家の裏舞台ばかり見せられると、心配にもなる。折しも英国の新首相に就任したテリーザ・メイ氏は強い指導力の発揮と新しい将来像の提示を決意表明したという。一国の首相でないにせよ都知事も重職である。さて、候補者たちの覚悟の程はどうか。「あの鐘」を鳴らした後で、議会と官僚に音を上げるようでは都民から希望がまた遠ざかる。