▼作家織田作之助は、明治期に大阪経済を復興に導いた五代友厚が無名であることに、我慢ならなかったらしい。1943年に、その生涯を描いた作品「大阪の指導者」(河出文庫『五代友厚』所収)を発表している。中に五代が成功するための心得を説く場面があった。「一歩先んじて進む者は成功し、後るる者は不遇を嘆つ。故に人は常に機を見るに敏なることを要する」。平素から公言していたそうだ。
▼この言葉を思い出したのは、ソフトバンクグループが18日、英半導体設計大手のARMホールディングスを買収すると発表したからである。買収金額約3・3兆円はことしのM&Aで世界3番目の規模という。いやはや庶民にはまるで想像もつかない。孫正義社長も「機を見るに敏」な人物だから、先を読んでかなりの勝算があると踏んだのだろう。ARMはあらゆるモノをインターネットとつなぐ「IoT」に積極投資していたとのこと。孫氏は新しいインフラに目を付けたわけだ。
▼ARMの名を今回初めて聞いたという人も多かったのでないか。筆者も全く知らなかった。ところが同社HPによると世界中のスマホに使われている半導体の実に95%を設計しているのだという。世の中の動きを見極め確実に先の時代のために布石を打っておく。なるほどソフトバンクが成長を続けられるゆえんだろう。さて、ビジネス界の大胆な挑戦は見た。次に見たいのは政府の挑戦である。経済対策は20兆円を超える規模との声も出てきた。「機を見るに敏」の実施を待ちたい。