世界最高水準の知性を持つとされる理論物理学者フリーマン・ダイソンの望みは、自ら宇宙に出掛けることだという。新たな法則を発見する程度では飽き足りないらしい。『宇宙船とカヌー』(ケネス・ブラウワー、ちくま文庫)に教えられた
▼そこで目を付けたのが小惑星。「我々がスペース・コロニーの建設をどこかではじめるとすれば、そう、この先二十年以内のことだが、私は自分の金を小惑星に賭けるね」。実に自信満々ではないか。ダイソン氏のことゆえもちろん無謀なギャンブルなどではない。多くの小惑星に水が存在していること、重力が弱いため離着陸が容易なこと、それが小惑星に植民する上で絶好の条件になると見たのである
▼その発言から約20年後の2003年、JAXAの探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に向け飛び立った。数々の苦難の末、10年に世界で初めて小惑星の微粒子を持ち帰ったのはご存じの通り。コロニーとまではいかなかったものの、第一歩は記したのである。そしてもうすぐ、今度は「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着する。早ければ6月下旬だそう。前回同様に標本を採取するが、中でも注目は有機物の存在。リュウグウは46億年前の太陽系誕生の痕跡を残しているため、もし有機物があれば地球の生命の起源を地球の外に見つけられるかもしれない
▼何とも好奇心を刺激される話ではないか。地球に帰ってくるのは20年の末。どうやらダイソン氏ならぬ人類が小惑星に賭けた金は、宝物がいっぱい詰まった玉手箱として返ってきそうである。