▼次々と訪れる困難に立ち向かう、けなげなヒロインを応援せずにはいられない。そんな気持ちでNHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」を、毎日楽しみに見ている。作り話にそんな感情移入してどうする、と言うなかれ。多少の演出はあるにせよ、今も発行が続く雑誌『暮しの手帖』を創刊した大橋鎮子さんをモデルにしたドラマなのである。昭和23(1948)年創刊だから、まだ戦後の混乱期だった。
▼大橋さんはその第一号のあとがきにこう記している。「はげしい風のふく日に、その風のふく方へ、一心に息をつめて歩いてゆくような、お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れがつづいています」。さらっとした文章だが「生きてゆくのが命がけ」とは何とすさまじい表現か。もっとも、戦後の困窮を経験していない者が読むからそう思うので、当時の人々からすれば「そうそう」と共感できる事実だったのだろう。食糧難の上、着る物も住む所も満足にはなかった時代である。
▼そんな過去を知るとデフレから抜け出していないとはいえ、豊かな現代に暮らす幸せを感じないわけにいかない。この豊かさの理由は幾つかあろうが、平和が長く続いたことも大きな一つである。ことしも終戦記念日が近付いてきた。平和歴71年といえばもはやベテラン。周辺には軍事的野心を持つ国もあるが、日本は培ってきた知恵と経験で難局を乗り越えていきたいものだ。終戦記念日をまた1周年からやり直し、「生きてゆくのが命がけ」になることなど誰も望まないのだから。