▼随分前から行ってみたいと思いながら、怖くてどうしても足を踏み入れられなかった登山道がある。夕張山系の秀峰芦別岳の旧道がそれなのだが、難易度が高いからという訳ではない。ダニに襲われることが格別多いコースだからなのである。一般向けの明るい新道に比べ長く険しい旧道は、歩く人も少なくやぶが茂りやすい。そうした草木と常に接触しながら歩く登山者は、ダニの格好の標的というわけ。
▼今月、本道で40歳代の男性が「ダニ媒介性脳炎」のため亡くなったという。お気の毒というほかないが、その報を聞いてダニへの恐怖感が一層増した。憧れの芦別岳旧道はさらに遠くなったようである。この病気はマダニにかまれて発症する感染症で、死亡例は国内で初めてとのこと。マダニといえば「ライム病」がすぐ思い浮かぶが、死を招くこんな病気もあったとは。本道では確認されていないものの、西日本では「重症熱性血小板減少症候群」の症例報告も少なくないのだとか。
▼旧道に登るため以前からダニ対策を調べていた。一番は「君子危うきに近寄らず」だが、生息域に入るなら肌を露出させてはいけない。裾や袖口など開口部は閉じ、首にはタオルを巻く。複数で行動し、衣服に付いていないか確認し合うのもいい。取り除くにはガムテープが有効だ。とまあ分かっていても旧道に入る勇気はまだ出ない。趣味なら無理して行くこともないが、仕事で野山に分け入り、やぶこぎをせねばならない人も多いはず。標的にならぬよう鉄壁の守りを心掛けたい。