▼長田弘さんが人生の深い味わいを詩に託した作品集『食卓一期一会』(晶文社)に、「アレクシス・ゾルバのスープ」がある。ゾルバが旅人にこう話すのだ。「ある奴ァ食いものを贅肉にする。ある奴ァ食いものを魂に変えちまう。まったく高くつく食いかたをする奴がいる。食いものは上機嫌に変えなくっちゃいけねえ」。同じ食べ物を、栄養にする人もいれば、足かせにする人もいるということだろう。
▼そう言われると視線を落とし、突き出た腹をしみじみ眺めながら納得する御仁もいるのではないか。ところで、結果が考え方や行いに左右されるのは、何も食べ物の話に限らない。お金についても全く同じことが言える。つい先日、本道のインフラ整備を賄う2017年度の開発予算概算要求が公表になった。事業費にすると前年度当初比17.3%増の7658億円だという。毎年のことながら、中身にはなかなか見応えがある。肝心なのは、どれだけしっかり栄養にできるかである。
▼本年度始まった北海道総合開発計画は「世界水準の価値創造空間」の形成をビジョンに掲げている。主要な柱は食と観光だ。新鮮でおいしい食と広大で豊かな自然は道民の自慢。総意を結集するにふさわしい目標だろう。概算要求でも農業や空港など、食・観光分野に重点を置いている。ただ今回の台風では、図らずもその後ろ盾となる交通インフラのもろさが露呈した。ぜい肉はいらない。道民が力を発揮できる強靱(きょうじん)な体の北海道。それを作る予算にすることである。