▼海堂尊氏が医師経験を基に描いた医療ミステリー「チーム・バチスタ」シリーズに、『螺鈿迷宮』(角川書店)がある。読んではいないのだが、関西テレビがドラマ化したものを毎週楽しみに見ていた。終末期医療に取り組み、地域でも評判の良い病院が物語の舞台だ。ところがこの病院、あまりに人が死に過ぎるとうわさされてもいた。心療内科医田口と厚労省技官白鳥の名コンビが調査を開始するが…。
▼横浜市神奈川区の病院で入院患者の点滴に海面活性剤が混入され死亡した事件の報に触れ、このミステリーを思い出した。明るみ出たのは18日に1人の高齢患者が亡くなってからだが、この病院では7月を境に、亡くなる患者が急に増えていたという。しかも4階のフロアばかりだったそうだ。神奈川県警は殺人と断定したが、真相はまだ闇の中。液体を注射器で点滴に混入しても、跡はほとんど確認できないらしい。犯人は周到に準備していたのだろう。底知れぬ悪意が感じられる。
▼患者の命を預かる病院は信頼あってこそ成り立つ。そこに付け込まれたのだろう。突然命を奪われた方とその家族らの無念はいかばかりか。犯行もさることながら、今回の事件では死亡者の急増を見過ごした病院の態度もふに落ちない。先のドラマでは、内部の不都合な事実を外部に出さない病院の内向きな空気が調査を阻んでいた。渦中の病院もそうだったのかどうかは知らないが、犯人を助長させた責任は免れまい。憎むべきは犯人だが、病院の内部統制見直しも急務ではないか。