▼自分には全く非がないにもかかわらず、「これは全部あなたの責任よ」と言葉の機関銃で妻に責められたら、俺も死にたいくらいの気持ちになるかもな―。そんなことを考えて身につまされたご仁もいるのでないか。東大阪市の近鉄東花園線で電車の遅れを乗客に責められ、思い余って高架から飛び降りてしまった車掌の話である。多勢に無勢だったようだから、追い詰められた末の衝動的行動なのだろう。
▼21日の出来事だが近鉄はすぐに車掌の処分を検討すると発表した。ところがここにきて、いきさつを知った人の間でその近鉄に嘆願書を出す動きが盛り上がっているという。処分を前提にするのはやめ、寛大な処遇と心のケアを求める内容である。どうやら世間の風は冷たいばかりではなさそうだ。詳細は分からぬまでも、困っている人をみすみす放ってはおけないということだろう。車掌は「もう死にたい。こんなの嫌だ」などと叫んでいたらしい。あまりに悲痛な訴えではないか。
▼いつからだろう、行き過ぎた顧客第一主義がまかり通るようになったのは。「おもてなし」の言葉が独り歩きを始めてからか。今回、会社は事なかれ主義をおもてなしの美名に隠し、客と長いものには巻かれろとばかり現場に無理を強いてはいなかったか。嘆願書もそうだが世間は意外と温かい。目を気にするならむしろ不当なクレーム客から毅然と社員を守る姿勢がほしかった。鉄道会社の使命は安全、安心な運行であろう。車掌が危険、不安を感じているのでは、実現など程遠い。