目撃者たちのこの一連のやりとりを知らない人はたぶん、それほど多くないだろう。「空を見ろ!」「鳥だ」「飛行機だ」「いや、スーパーマンだ!」
▼崩壊の危機にひんした母星クリプトンから地球に逃れてきた主人公が、超人的力で大活躍する米国のヒーロー物語である。筆者は子ども時分にアニメ版を見た記憶しかないが、日本で最初のテレビ放映は1950年代後半ごろに輸入された実写ドラマだったという。スパイダーマンやバットマンなど米国の漫画雑誌、いわゆるアメコミから生まれたヒーローは他にも多々あれど、幅広い年代に知られ、愛される存在といえばスーパーマンが一番でないか
▼道具も仕掛けもなく自然体で強い。その分かりやすさが支持される大きな理由の一つだろう。こうした飛び抜けた能力を持つ正義のヒーローが米国では珍しくない。ところが同じ西側先進国でも、英国やフランスといった欧州にはほとんどいないそうだ。強さに価値を置く米国ならではの現象なのかもしれぬ。そんな米国気質が作り出した活劇とみれば納得もいく。大統領選候補ドナルド・トランプ氏が数々の暴言にもかかわらず、多くの支持を得続ける不思議のことである。最近も楽屋裏で女性蔑視発言をしていたことがワシントン・ポストにすっぱ抜かれた。第2回テレビ討論会でのヒラリー・クリントン氏への個人攻撃も低俗だった
▼「強いアメリカ」を求めてトランプ氏を支持していた人々もそろそろ、彼は「スーパーマン」でなく、ただの「鳥」だったと気付き始めているのでないか。