詩人萩原朔太郎に、思想芸術や社会の諸相について丹念に批評した著書『虚妄の正義』(1922年)がある
▼内容は多岐にわたるが、結婚に関してはこうあった。「男と女とが、互に相手を箒とし、味噌漉しとし、乳母車とし、貯金箱とし、ミシン機械とし、日用の勝手道具と考へる時、もはや必要から別れがたく、夫婦の実の愛情が生ずるのである」。どうやら朔太郎さん、あまり幸せな結婚ではなかったようだ。詩人の結婚のことはさておき、ビジネスの世界ではこの考え方にも見るべきところがあるのではないか。トヨタ自動車とスズキが「お見合い」をしたそうだ。12日、業務提携の検討に入ると発表した。世知辛い世の中を渡っていくため、互いの必要を満たす良き伴侶が欲しかったということだろう
▼自動車業界は現在、駆動系の電化や自動運転技術、排ガス規制、新興国市場開拓などで激変期にあり、世界的な競争環境が厳しさを増していると聞く。独り身で生きていくには難しい時代なのである。今回はスズキがトヨタにプロポーズしたらしい。鈴木修スズキ会長が旧知の間柄で信頼し合う仲でもある豊田章一郎トヨタ自動車名誉会長に相談したのだとか。それにしても9月初めにその話をして、10月半ばの発表だから、よほど相性は良かったとみえる。当面は環境や安全技術で提携を考えていくとのこと
▼ところで今は対等な立場のようだが、いわゆる「格差婚」でもある。一方的に使った揚げ句、用が済んだら離縁とならぬよう、互いに「実の愛情」を育んでもらいたいものだ。