ある男がトウモロコシ畑をつぶして野球場を造ると、不思議なことに亡くなったはずの伝説の名選手「シューレス・ジョー」がそこでプレーしに現れる
▼W・P・キンセラの同名の小説(文春文庫)だが、これを元にした映画『フィールド・オブ・ドリームス』の方が多分有名だろう。男は観戦しながら思う。「野球はあらゆるゲームのなかでも最も完璧で、ダイヤモンドのように堅固で、真正で、純粋で、貴重だ」。ことしはとりわけ、この思いに共感する人が多いのではないか。「SMBC日本シリーズ2016」がいよいよ今週土曜日、22日から広島のマツダスタジアムで始まる。北海道日本ハムファイターズ対広島東洋カープ。勝負の神様も随分と粋な対戦を用意してくれたものだ
▼双方とも地域密着型の球団で、たたき上げの選手が目立つ。ファンも熱い。しかも日ハムは10年ぶり3度目、広島は32年ぶり4度目の日本一挑戦。どちらもしばらく遠ざかっていた。思い入れしてしまう要素がたっぷりある。盛り上がるお膳立ては整い、あとは開幕を待つだけと思っていたら、広島の黒田博樹投手の突然の引退表明ときた。大リーグの20億円オファーを蹴って広島に戻り、その「男気」が絶賛された黒田投手である。これでチームが燃えないはずはない
▼日ハムでやはり引退する武田勝投手の「俺のために優勝しろ」が、クライマックスシリーズで選手らの力になったのは記憶に新しい。日ハムには早く優勝を決めてほしいが、夢のようなゲームを長く見ていたい気もする。ぜいたくな悩みだが。