まだ給料も低い駆け出しのころに先輩諸氏から、このことわざを引き合いに出して諭された人も少なくないのでないか。「稼ぎに追い付く貧乏なし」
▼一生懸命に働けば暮らしに困ることはないから頑張れとの希望あふれる言葉で、戦後の高度経済成長期には確かに的を射たアドバイスといえただろう。人口がどんどん増え、消費者需要は絶えず旺盛。物を作れば作った端から売れ、経済が急速に拡大する時代だった。今がそうでないのは誰しも知っている事実だが、こんなニュースを聞くとさらに将来への不安が募る。介護や医療などの社会保険給付費が、2040年度には190兆円に上るそうだ。121兆円と見込む18年度の1・57倍という。このままでは「給付に追い付く稼ぎなし」となること間違いない
▼政府が21日の経済財政諮問会議で示した推計である。40年頃にピークを迎え、国民の3人に1人、4000万人が高齢者になるのだとか。ところが急進する高齢化に政府の対応は後手に回ってばかり。この先100年かけてこの変化なら驚きもしなかろう。20年ならあっという間である。給付で最も多いのは年金の73・2兆円、次いで医療68・5兆円、介護25・8兆円と続く。一方で子ども子育ては13・1兆円にとどまる。高齢化のすさまじさ、ここに極まれりだ
▼政府としては入りを増やし出を抑えるしかないが、単純に給付を減らせば高齢者の暮らしが立ち行かなくなるし、さりとて消費税率を際限なく上げれば現役世代の生活が行き詰まる。「稼ぎを追い抜く負担あり」では希望も何もない。