昨年、日帰りで空知方面をドライブした際、夕張市の道の駅「夕張メロード」に立ち寄った
▼これまでも道内各地の道の駅を数々利用してきたが、ここは初めて。入ってみると地元スーパーの一角を間借りした形態である。かえって新鮮で、ゆるキャラ「メロン熊」の土産品の他に、つい、手書きで「おいしい」と書かれたいかにも地元商店手作りの豆大福と地場産野菜も買ってしまった。それもまた旅の楽しみだが。最近、夕張市を舞台にした小説『向田理髪店』(奥田英朗、光文社)を読んだため、街のたたずまいを思い出していたのである。もっとも物語の中では「苫沢町」なのだが、昔は炭鉱で栄え閉山後は映画祭やレジャー施設を誘致するもついには財政破綻したというから、夕張市がモデルに違いあるまい
▼札幌で就職した息子が店を継ぐと言って1年で仕事を辞め帰ってくる、深刻な出会い不足のため中国で嫁を見つけてくる―など過疎の町の人間模様を描いた連作短編集で、結末はどれも心温まる。夕張が舞台の小説といえば、あまり有名でないが太平洋戦争前後に、やはり心温まる作品を発表していた小山清も忘れられない。東京浅草の生まれだが、実際に2年ほど夕張の炭鉱で働いていた。その経験を元にした短編「夕張の宿」は戦後夕張の雰囲気を伝えていて味わいがある
▼ドライブの旅も楽しいが、読書は居ながらにして時間も空間も飛び越えて心の旅に出られるところがいい。さて、きょうから読書週間である。皆さんも極上の一冊を探して心の旅に出てみてはいかがだろう。