万能細胞臨床へ

2018年05月28日 07時00分

 小樽で育った文学者伊藤整に「春日」という詩があるのをご存じだろうか。一つの風景を描写しているだけなのだが、不思議と暖かさや生命力を感じさせられる作品である。少し長いが一節を紹介したい

 ▼「老婆は軟い畑に畝をつくり/黒土の穴に/真白い豆を一つ一つ並べてゐる。その豆の間違なく萌え出るのを知るもののやうに/ていねいに/いつくしみつゝ土をかける。この老いたる女と白き豆とに約束あり」。新たな豆が育つ。老婆はそれを夢見ているのではない。確かな約束と思っているのである。いろいろな細胞に変わる「万能細胞」を医療に役立てようとする研究者たちも、いよいよその段階に達したのだろう。臨床に応用する計画の発表が16日から3件も続いた

 ▼iPS細胞で世界初の心臓筋肉シートを作り患者に移植する大阪大、同じくiPSから司令塔役の免疫細胞を誕生させた京都大iPS細胞研究所、国内で初めて医療用のES細胞作製に成功した同大ウイルス・再生医科学研究所である。地道に育ててきた研究がここにきて一気に花開いたわけだ。例えば大阪大の計画では自ら拍動する心臓筋肉シート2枚を「虚血性心筋症」の患者の心臓に貼り、機能しなくなっている心筋の再生を促すという。弱った心臓をばんそうこうで治すようなものか。まあ、実際はそんな簡単な話ではないのだろうが

 ▼京都大の免疫細胞はがん治療に、医療用ES細胞は多様な再生医療にそれぞれ新たな道を開くらしい。こちらは「努力を重ねた研究者と万能細胞とに約束あり」だ。それがかなう日も近い。


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