福島の少年の手記

2016年11月17日 10時28分

 題名は後にするが、竹中郁にこんな詩がある。「僕は眠つてゐる。誰かと一緒に、一つの寝床で。 かしてくれるやさしい手枕。僕はその手ばかりを愛撫する。それ以外には胴もない、顔もない、髪もない、 君はこの人を誰だと思ふ。当ててみたまへ。」

 ▼さて、「この人」が誰だか当てることができただろうか。答えは「絶望」。詩の題名でもある。夢や希望は失われ、絶望だけが傍らに寄り添っていたのだろう。東京電力福島第一原発の避難で福島から横浜の小学校に転校し、ひどいいじめを受けるようになった少年もやはり絶望を感じていたようだ。おととい、今は中1になった少年が弁護士を通じ手記を公表した。目にした人もいようが、胸が詰まる内容である

 ▼放射能を材料にばい菌扱いされ、蹴られ殴られ、「ばいしょう金あるだろ」と大金まで脅し取られたそうだ。学校に話したが信用してくれなかったとも記している。「いままでなんかいも死のうと思った」らしい。どれだけつらかったことか。いじめは社会の縮図という。聞くと福島産農産物を食べるのは危険、福島の人は放射能で汚染されている―そんな科学的根拠のない風評を真に受け、広める人もいるのだとか。そんな心ない言動が子どもの世界をゆがめ、いじめの温床となり、絶望を生んだのだろう

 ▼けれど少年は踏みとどまった。支えたのは意外にも死者たちだったという。手記にはこうある。「でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」。命を慈しむ思いと勇気が大人たちの愚かさを打つ。


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