貧乏長屋に口うるさい大家、そそっかしい若旦那にしっかり者のおかみ。落語ではおなじみの登場人物である。皆少々変わっているが憎めない。どこか人間の本質をついた部分があるからだろう
▼私事で恐縮だが小学生の時、親にねだって買ってもらった本が分厚い講談社文庫の『古典落語』(興津要編)だった。学校で嫌なことがあっても、貧乏長屋の熊さんや与太郎を眺めていればすぐに気分が良くなったものだ。人間について学べ、気持ちも明るくなるのだからこんな有意義な娯楽もない。そんなわけで、落語をはじめとする「笑い」の効用はよく分かっていたつもりである。ただ、それががんに対抗する力になると聞いたときには最後にオチがあるのではと疑ってしまった
▼ところが事実だという。「大阪国際がんセンター」が先頃、「笑い」ががん患者の免疫力を高めるとの研究結果を発表したのである。吉本興業や松竹芸能の協力を得て、桂文枝さんらの落語や漫才を隔週で患者に見てもらったそうだ。何が起きたか。がんを攻撃する免疫細胞「NK細胞」が有意に増加したのである。中には最大で1・3倍になった人もいたらしい。同時に抑うつや痛みが改善する傾向も見られたというから、まさに笑いが止まらない状態だろう
▼「笑いは人の薬」のことわざもあるくらいである。笑いが健康にいいことは古くから多くの人に知られていた。研究はそれががんにも適用できることを医学的に証明したわけだ。そのうち病院で落語の本やDVDが処方されるようになるかも、なんて想像すると笑える。