毎度おなじみの落語である。稲荷神社の前で茶店を営む老夫婦がひどい客足の鈍さに困り果てていた。最後の頼みと神社に参り、戻ると客がいてわらじをくれと言う。残っていた一足を売ると、不思議なことに上からもう一足出てきた
▼雨で道がぬかるんできたため、わらじを求める客は次々訪れる。ところがわらじはどれだけ売っても上からぞろぞろぞろぞろ。おかげで店は大繁盛。その名も「ぞろぞろ」という噺。在庫切れの心配もいらず、必要なものを多くの人に提供できるのだからこんな楽なことはない。年金もそんな具合だといいのだが、現実はそう甘くなさそうだ
▼きょうは「年金の日」。折も折、国会は年金制度改革法案でもめている。きのう衆院を通過したが、どちらかというと法案をもむというより議長席周りでもみ合っているという方が適切のよう。ところで法案の焦点は将来にわたって年金を維持するための支給額抑制にある。負担する現役世代の賃金が下がれば、支給額も下げる仕組みだ。民進党などはこれを「年金カット法案」と批判しているが、どこかから「ぞろぞろ」と財源が出てくる秘密でも知っているのだろうか
▼政府・与党の前のめり姿勢に懸念を感じたとしても、制度の永続的安定と世代間格差解消のためには早急に調整を始める必要がある。負担と支給に公平を欠く制度は持たない。一方で現役世代の賃金を下げないための雇用経済対策も両輪の一つとして重要だろう。手をこまねいていると、それこそ老後破綻が「ぞろぞろ」出てくることにもなりかねない。