100歳の誕生日会を開かれるのが嫌で、老人ホームから逃げ出した主人公アランの痛快な冒険を描いたコメディ小説がある。『窓から逃げた100歳老人』(ヨナス・ヨナソン、西村書店)がそれ
▼こんな会話が印象に残っている。一緒に旅をしているヘルベルトが「計画通りにいかない気がするな」と不安げにつぶやくと、アランが自信満々に励ますのだ。「いいかい、物事はなるようになる。それがふつうだ」。ボールから手を離せば落ちる、というのと同様、当たり前のことを言っているにすぎない。それが人生経験豊かな100歳の老人の口から出ると、究極の真理を聞いている気になるから不思議である
▼さて、そこまでの高齢ならぬ安倍首相の今の胸の内にあるものは、ヘルベルトの不安か、それともアランの達観か。また期待を抱いて見ていた北方四島の元島民の皆さんはどう感じたろう。山口、そして東京ときのうまで2日間にわたって行われたロシアのプーチン大統領との首脳会談が終わった。会談終了後に開かれた共同記者会見は印象的だった。安倍首相とプーチン大統領が交互に会談の成果を発表したのだが、安倍首相がその冒頭から大部分を北方領土問題に費やしたのに対し、プーチン大統領は最後に少し触れただけだったのである。その問題で合意できたのは、特別な制度の下での共同経済活動を公約した点のみ
▼どうも生煮えの魚を食べさせられた感が否めない。うまく飲み込めるだろうか。いずれにせよ一道民としては、「なるようになる」以上のことをぜひ望みたい。