東日本大震災が発生した年の3月末、福島県からの避難者たちが寝泊まりしていた東京武道館に天皇陛下が慰問に訪れた
▼当時都知事だった石原慎太郎氏が出迎え、陛下の健康を気遣い「被災地には若い男宮を差し向けては」と進言したそうだ。その時は黙って聞いていた陛下だが帰り際、石原氏に歩み寄ってこう言ったという。「石原さん。東北は、私が自分で行きます」。『朝日新聞select』に教えられた。報道や第三者を通してでなく自分の目で直接被災地を見、苦しんでいる人々に寄り添うことが象徴としての務め、と強い決意を抱かれていたようだ。翌4月には東北へ足を運んでのお見舞いを始められた。思いをつづった一首がある。「大いなるまがのいたみに耐へて生くる人の言葉に心うたるる」
▼天皇皇后両陛下がきのうまで東日本大震災で被災した福島県を再び訪れていた。来年4月の譲位が決まっているため、在位中としては最後になる全国植樹祭(南相馬市)への出席が主だったという。ただ、今回も日程を密に詰め込んで両陛下自ら住民を訪ねて行き、温かい励ましの言葉を掛けることは欠かさなかった。福島第1原発事故の避難者や、誘導の途中で津波の犠牲となった消防団員の家族らと懇談されたという
▼強行軍がたたり、皇后陛下が体調を崩されることもあったようだ。「無理はなさらずに」が国民共通の願いだが、譲位まで全力でとのお考えなのかもしれない。頭が下がる。「私が自分で行きます」。その変わらぬ有言実行に被災地だけでなく日本中が勇気付けられている。