もう何十年も前の話だが、アルカリイオン水生成器なるものを買ったことがある。出始めのころだったから相当値は張った。健康に良いとの触れ込みだったと記憶している
▼ところがこの代物、頻繁にフィルターを替えねばならぬし掃除も大変。定期的な部品交換が必要な上に、よく故障するときた。その費用がまた高いのである。狭い台所なのに場所もとる。結局すぐ使わなくなり、ただの置き物と化してしまった。家庭に起こった出来事で、扱う物が害のない水だから笑い話で済ませられる。成り行きは似ていても、これが国の一大事業で、扱う物が危険度の高い放射性物質となるとどうにも笑えない
▼高速増殖炉「もんじゅ」のことである。政府が正式に廃炉を決めたそうだ。消費した以上の核燃料を生み出す「夢の原子炉」として開発が始まったものの、事故や不具合が相次いだ上、内部の無責任体質も露呈し、ついに道半ばで引導を渡された。初臨界から約22年で稼働したのは250日だけだったという。人は昔から、外部エネルギーの供給なしに運動を続ける永久機関を夢見てきた。物理学的には実現不可能だが、もんじゅがそれに準ずる画期的技術だったのは事実。資源小国の日本としてはぜひとも成功させたかったはずである
▼頓挫したのはひとえに、ずさんで隠蔽(いんぺい)癖も抜けなかった旧動燃からの組織体質故だろう。政府は今後、次の段階の「実証炉」開発に入るそうだが、代わり映えしない組織体質なら結局置き物と化し無駄になるだけ。よく肝に銘じておくべきだろう。