中学、高校と歴史の授業に苦手意識を持っていた人も少なくないのでないか。名前が際限なく登場し、次から次へと出来事が起こる。人々の数千年にわたる営みが教科書1冊にまとめられているのだから、それも当たり前
▼問題は試験だ。何が出題されるか分からないためヤマを張ると大抵当たらない。それならと言葉の丸暗記を試みるも、今度は覚えることが膨大で記憶力が追い付かない。本当に難儀な科目である。結局、頭に残るのは正確でない断片ばかり。そんな人のために、歴史学者の山本博文東大教授は『歴史をつかむ技法』(新潮新書)で学び方の勘所を教えている。「油絵を描くときのようにまずデッサンをして、全体を捉えてから少しずつ細部を描き込み、また色を重ねていく感じ」だそう
▼歴史といえば過去のようだが実際は日々新たにつくられていく出来事の積み重ね。とすると、12日に史上初めて開かれた米朝首脳会談を評価する上で大切なのもやはりデッサンを読み解くことかもしれない。両首脳が描いたのはどんなデッサンだったのか。一番のテーマは戦争の回避だろう。中東でも明らかな通りいかに米軍兵力が圧倒的でもいざ戦いとなれば泥沼化は免れない。そうなれば拉致問題も完全な非核化も全て吹き飛ぶ
▼今回は体制保証を手にした北朝鮮のごね得との見方もあろう。ただ制裁解除は見送られ、トランプ大統領も「信頼」の言葉で圧力をかけ続けている。この先、美しい油絵が描き上がるかどうかは金正恩委員長の行動次第。トランプ氏は短気だ。いつまでも待ってはいまい。