対戦前のプロレスラーが、テレビカメラの前で相手レスラーに挑戦的な言葉を吐く。プロレスファンならよくご存じの光景ではないか
▼身振り手振りはあくまでも大きく、唾を飛ばし大声で罵倒する内容がほとんど。互いの戦意を高揚させる意味合いもあるのだろうが、大部分は試合を盛り上げるための演出にほかならない。もちろん観客もそんなことは十分承知した上で期待感を高め、熱狂を楽しんでいるのである。トランプ米国次期大統領の演説や討論会を見ての印象が、やはりプロレスラーのそれと同じだった。時に指を突き付け相手をののしり、現実を無視したような持論を大声でまくしたてる。大統領選勝利直後の演説こそ少しおとなしかったものの、11日の当選後初会見ではいつものトランプ節が復活していた
▼当の本人には米国を再び強い国にするため戦うベビーフェイス(善玉)との自負や自覚があるのだろうが、なぜかヒール(悪玉)にしか見えない。あのこわもての容貌と態度が良くないのか。記者会見では、あらためて「米国第一主義」の旗印を鮮明にした。メキシコとの国境に長大な壁を築く計画は断固進めるし、貿易赤字の相手国である中国や日本、ロシアなどには「敬意」を払わせるそうだ
▼その無謀なまでの自信には畏れ入るが、現在の国際関係や貿易についてどこまで正確に理解できているのか。得てして大言壮語するレスラーは早々とリングに沈む。さて、トランプ氏はどうだろう。全く新しいスタイルで名勝負を見せてくれるのなら、逆にうれしい驚きなのだが。