山塊の奥にある頂を目指して登山を始めるとき、麓からは大抵その山の姿が見えていない。しばらくは眺めのない森の中を行く。「青葉より青葉へ入る登山靴」(堂本ヒロ子)といった風情である
▼途中、見晴台と呼ばれる所に出てやっと遠くに目当ての山を望む。ただそこからではまだ青くかすみ、形も明瞭でない。岩を抱いた山頂の表情がはっきり見えるのは、あと300mほどの地点まで迫ってようやくだろう。その先、頂上直下で心臓破りのきつい登りが待っていると分かっていても、目の前に山頂を捉えた喜びに心は浮き立つ。自然、気合も入ろうというものである。それと似たような感覚なのかもしれない
▼自分が向かっているわけでもないのに、「はやぶさ2」が目的の小惑星「リュウグウ」まであと少しの所まで迫ったと聞き、ワクワクする気持ちを抑えられずにいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東大などが24日に撮影したリュウグウの鮮明な画像を公開した。約40㌔離れた地点という。タイやヒラメが舞い踊る姿はないものの、表面が岩でゴツゴツし、クレーターもあるのがはっきり確認できる。目的地も見えぬまま闇の中を3億㌔も飛び続け、とうとうここまで到達した
▼今の速度は秒速2cmというから、きょうには約20㌔の位置に来る。大したものだ。とはいえここからがまた難しい。最適な着陸地点を見極め、惑星表面を破壊して内部の物質を地球に持ち帰るのが使命である。まだまだ幾つも山を越えねばならない。再び地球を見る所まで戻ってやっと8合目くらいだろうか。