豊かな情感と圧倒的な声量にいつも心を震わされている人は少なくないだろう。演歌の大御所サブちゃんこと北島三郎のことである
▼道南の知内町出身。本道を代表する歌手だが、若かりしころ、デビューを目指し高校を中退してまで上京したものの芽が出ず、流しをしながら長らく食いつないでいたのは有名な話。生活に追われ希望を失いかけていたとき、才能を見いだしてくれたのが作曲家の船村徹だったという。才能にほれ込んだらとことん面倒を見るのが船村流。単に楽曲を提供されただけでなく、北島さんのように世話になったり恩を受けたりした歌手は相当多かったらしい。訃報を聞いて悲しむ人もそれだけたくさんいたということでないか
▼船村さんが先週木曜、84歳で亡くなった。生涯に手掛けた楽曲は5500曲以上に上るそうだ。20歳ころに作曲活動を始めたというから、単純計算で年に80曲は作曲していたことになる。船村さん自身、くめども尽きぬ泉のような才能をお持ちだったのだろう。本道各地を舞台にした数々の名曲で北のロマンを広く内外に発信してくれたことを考えれば、北海道にとっての大恩人でもある。例えば、年末のNHK紅白歌合戦でひところ定番となっていた北島さんの「風雪ながれ旅」や、もともとは北海道の漁師がモチーフだったという鳥羽一郎さんの「兄弟船」。演歌の他にも、明るい曲調で最果ての地の寂しいイメージを塗り替えたダ・カーポの「宗谷岬」がある
▼ご冥福を祈り、きょうは北島さんのデビュー曲「なみだ船」でも聴くとしようか。