サラリーマンの悲哀を描かせたら右に並ぶ者のない青木雨彦のエッセイに、こんな一節があったのを覚えている。昔読んだ話のため正確ではないが、単純な内容だから筋は違っていないはずである
▼夫の不倫がついに妻にばれてしまった。怒った妻は大変なけんまくで夫を問い詰める。一体いつから、相手の女とはどこで会ってたの―。夫は防戦一方。こう言うのが精いっぱいだ。本当に何もなかった、信じてくれ―。そんな小さな問題と一緒にするなとお叱りを受けそうだが、ちゃかしたくもなろう。あまりにお粗末ではないか。南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報が、奇術さながらに消失したり現れたりする一件である
▼防衛省は当初、廃棄したのでもう存在しないと言っていた。相手が信じてくれることを期待して、「なかったんだよ」と苦しい言い訳をしてみたわけだ。ところが国会で追及され再調査してみると、統合幕僚監部にも陸自にもデータが残っていたのである。見つかった時点ですぐ公表していれば傷も浅くて済んだ。ところがずるずる引きずっているうち、1月下旬に統幕の防衛官僚から公表するなとの指示が出たらしい。今さらあったとは言えない、なかったことにしようというわけだ。その官僚にとって防衛すべきは自分と省だったに違いない
▼浮気と防衛省の虚偽対応、騒動に大小はあれど、共通するのは一度地に落ちた信頼はなかなか回復しないことだ。国民に三くだり半を突き付けられる前に、防衛省は徹底して身をきれいにした方がいい。