車のハンドルを握ると途端に性格の変わる人がいる。身に覚えのある人も少なくないのではないか。いつもは温厚なのに、運転すると他の車や歩行者に対してやたら荒い言葉を投げ付け始めるのだ
▼もちろん外には聞こえていないのだが、普段のその人を知っているだけに同乗して驚くばかり。なるほど二重人格を描いた恐怖小説『ジキル博士とハイド氏』もただの作り話ではなさそうだと、妙に納得する次第である。この性格の変化は行動科学で「ドレス効果」と呼ばれているものが影響しているらしい。警官などその典型だが、制服を着ると自然とその職業にふさわしい性格になるのが「ドレス効果」。運転者は車を「着る」ことで無意識のうちに強くなった気分となり、優越感に溺れてしまうのだという
▼雪が解け、運転を控えていた人も路上に戻ってくる季節になった。きょうから春の全国交通安全運動である。知らぬ間に自分が身の丈を超えたドレスをまとっていないか点検するのに絶好の機会でないか。運動の重点は子どもと高齢者の交通事故防止。道警によると児童のうち最も被害が多いのは小1男子で、特に飛び出しと自宅の近所が危ないそう。新学期も始まった。親御さんは子どもが元気に帰ってくるまで気が気でなかろう
▼一方の高齢者は信号のない所での横断や認知機能低下による運転ミス、歩行と運転の両面で注意が必要だ。子どもも高齢者も時に予測できない行動をとる。いっそのことハンドルを握ったら意識して性格を変えてみるとしようか。ただし、思いやり深い方に。