何げない日常を歌にして、心地よいハーモニーで聴かせる女性デュオ「花*花」のヒット曲に『あ~よかった』(2000年)がある。ご記憶の人もいよう
▼盛り上がるサビ部分の詞はこんなだった。「あーよかったな あなたがいて あーよかったな あなたといて あーよかったな 一緒にいて あーよかったな 2人でいて」(作詞作曲こじまいづみ)。大切だと思える人に出会えた幸せを素直につづっている。「良かった」という言葉は、そんな喜びを表現するときにこそ使うものだろう。東日本大震災の発生は「東北の方だったから良かった」といった文脈では使われるはずのない言葉である。なぜそこまで心ない発想ができたのか
▼今村雅弘前復興相のことである。おととい開かれた自民党二階派のパーティーで復興状況について講演した際、こぼれた発言という。首都圏に近ければ被害はさらに甚大だったとの趣旨らしいが、だからといって東北で良かったとはならない。比べられる事ではないのだ。勝海舟は「政治家の秘訣は、何もない。ただただ「正心誠意」の四字ばかりだ」(『氷川清話』)とかつて語っていた。今も変わらぬ政治家が肝に銘ずべき指摘だが、今村氏の関心はその四字でなく、被害の数字にだけあったのではないか
▼安倍首相が即刻謝罪し、事実上罷免したのも当然だろう。被災者に寄り添うべき大臣がこれでは。後任には被災地福島選出の衆院議員吉野正芳氏を充てるそうだ。新大臣は「あーよかったな あなたがいて」と評価される人であってほしいものだが。