詩人のまどみちおさんは童謡の作詞も数々手掛けている。「やぎさんゆうびん」「ぞうさん」「一ねんせいになったら」。自然と笑顔になる作品ばかりである
▼「ふしぎなポケット」もその一つ。「ポケットのなかには/ビスケットがひとつ/ポケットをたたくと/ビスケットはふたつ―」。たたくたびに倍増していくのだからうれしくてたまらない。こう願うのは当然だろう。「そんなふしぎなポケットがほしい」。そんなことが現実にあるわけないと思いきや、案外そうでもなかったらしい。自民党が国会をたたくと、参院議員の定数が一挙に6議席も増えたのである。参院の選挙制度を改革する改正公職選挙法が18日、成立した。比例選候補者名簿の一部に、優先的に当選できる「特定枠」を設けたところが肝である
▼これで自民党が自然と笑顔になる作品に仕上がった。合区になったため現在それぞれ1議席の「鳥取・島根」「徳島・高知」の2選挙区で、「特定枠」を使えば各1議席追加できるのである。もちろん自民党がそんな事情を明かしているわけではない。ただそうでもないと6議席も増やす理由が分からない。一票の格差是正が目的なら埼玉選挙区を2増するだけでよかったのである
▼地方の声を丁寧に拾い上げるため、各都道府県から最低1人は参院議員を出すべきとの主張は理解できる。とはいえ法律で合区を定めておいて、新たな法律で抜け道を作るのではお手盛りと言われても仕方ない。議席を増やすなら国会を自分のポケットのようにたたいてでなく、国民納得の上でが望ましい。