イソップ寓話(ぐうわ)の一つに「男の子と木の実」がある。同様の話は数多くあるから、どこかで耳にしたこともあろう。こんな内容である
▼男の子が家で木の実の入った瓶を見つけ、食べようとした。つかめるだけつかんで出そうとしたものの握り締めた拳が瓶の口に引っ掛かる。何度やっても出せず、男の子はついに泣き出してしまう。それを見ていた母親があきれ声でひと言。「一つずつ出して食べなさい」。あれも欲しいこれも欲しいと一遍に多くを望んでも、結局何も手に入らない。そんな経験的知恵を教えるものだろう。木の実ならかわいいものだが、これが日本国憲法だとそうも言っていられない
▼憲法論議を聴いていると、あまりにも多くを憲法に望み過ぎではと思わされることがしばしばあるのだ。例えば、いわゆる「護憲派」と呼ばれている論者たちの9条の扱い。日本の平和と世界の平和、国際紛争の解決。これら全てを、今ある9条の瓶から一遍に出そうとしている。さぞ、難しかろう。一方、「改憲派」の代表格自民党の「改正草案」。こちらは保守というより、ちりばめた戦前の価値観で国民の思想まで手に入れようとしているようだ。何とも息苦しい。安倍首相は1日、この草案をそのまま憲法審査会に提案することはないと表明したが、賢明な判断だろう
▼きょうは日本国憲法が施行されて70年の節目である。あらためて条文を一つずつ瓶から出して点検するのに絶好の日ではないか。おっと、その前に護憲派も改憲派も、まずは固く握り締めた拳を開いた方がいい。