数年前のことだが、『叛逆航路』(アン・レッキー、創元SF文庫)という作品が英米の名だたるSF文学賞を総なめにした
▼物語の舞台ははるかな未来。主人公はネットワークで同時に数千体の人間型生体兵器を操ることのできる宇宙戦艦のAI(人工知能)である。このAIはほぼ独立した意識を持ち、戦艦としての役割を果たしながら、宇宙の隅々にまで行き渡らせた分身を使って情報の収集や工作活動を行う。物事をあまねく知っていて自ら判断を下し、必要とあらば迷いなく実行に移す。生身の人間の出る幕など全くないに等しい。今、こんな存在がもしあったとして、何かに例えるとしたら神くらいか
▼それを思い出したのは、AI開発ベンチャー「ディープマインド」の囲碁ソフト「アルファ碁」が先週、3人の中国人棋士を立て続けに破ったからである。世界最強とも称される3人だったという。なのに歯が立たなかった。神ではないにせよ、少なくとも人間を超えるAIは既に出てきているのだ。優れたAIがあれば多くの問題は解決され未来はバラ色。そう考えたいところだが、中には暗黒の未来を予想する人もいる
▼AIを多角的に検証した『人工知能 人類最悪にして最後の発明』(ダイヤモンド社)の著者バラットは、AIの「進化」でAIと人間は人間とネズミほど知能差が開くと警告する。人間は突如現れた神のような存在に物として扱われるだけになるというのだ。しかも遠い未来の話ではない、と。ただの碁だろ、と安心しているなら、もう手の内にはまっているのかも…。