誰しもよく経験することだと思うのだが、どんな物や事にも表裏二つの側面がある。ダムも例外ではないということだろう。「ダムの壁洗う緑雨や狐鳴く」佐藤日和太。そんな穏やかな平時の趣と、不幸にも洪水の原因となってしまった災害時の姿と
▼ラオスで23日、建設中のダムが決壊し下流に位置する6カ村が濁流にのまれたそうだ。少なくとも数百人が行方不明となり、6600人以上が住む家を失ったという。英国BBCのWeb版によると、決壊したのはメコン川支流で建設が進む、来年稼働予定だった水力発電所の副ダム。相次ぐ豪雨で大量の水が流れ込み、生じた亀裂から崩壊したらしい。50億m³の水がいちどきに流出したとの報道もあった。黒部ダムの総貯水量が約2億m³だから、その25倍もの水が突然村々を襲ったことになる
▼事実とすれば現地は惨状を呈していよう。厚い支援の手が差し伸べられるといいのだが。それにしてもひとたびダムが決壊したときの恐ろしさがこれほどとは。人ごとと思えないのは日本も先の西日本豪雨でダムに絡む災害があったからだろう。愛媛県の野村、鹿野川両ダムのことである。異常洪水時防災操作の緊急放流で肱川が氾濫し9人が死亡、3000棟を超える住居が浸水した
▼残酷な事実である。ただ、適切に放流されずダムが壊れていればどうなったか。被害は拡大していたろう。ラオスも愛媛も住民への周知と避難には問題があったようだ。ダムを悪者にするのでなく、人が知恵を絞り、生活を支えるダムの優れた面をしっかり引き出さねば。