明治から昭和前期にかけて、文学者と酒は分かち難い関係で飲み方も豪快な人が多かったらしい。小説家の火野葦平もご多分に漏れず、中でも無類のビール好きとして名が通っていたそうだ
▼愛好する気持ちが高じて、「ビールの歌」まで作ってしまったくらい。一部を紹介すると、「ビールこそよろしきものか白き泡/かみつつあれば世界はいらず」「ビールびん百ダースほどならべおき/将軍のごと閲兵をする」。これはわが心の内を歌っているのでは、と思われた人も少なくないのでないか。当方もその一人である。汗をかいた後に飲む、あの冷たいビールといったら。ところでそのビールの気が抜けてしまうような無粋な話題で恐縮だが、あすからついに酒の安売り規制強化が始まる
▼酒税法の改正により、過度な安売りをすると酒類免許取り消しも含む厳しい処分を受けることになるそうだ。ビール会社や卸の販売奨励金で安売りの目玉づくりをしてきたスーパーなど量販店にとっては相当な痛手だろう。もちろん懐の寂しい一消費者にとっても値上げはつらい。葦平と違いビールを100ダース並べて閲兵することはないにせよである。最近は消費税が8%のせいもあり、ちょっと買い物をしたつもりでもすぐ目を見張る金額になる
▼どうやらビールも気軽には買い物籠に放り込めなくなりそうだ。仕方がない、これを機にビールはあまり飲まないことにしようか。「前言をはや撤回やビール干す」橘夫仁子。暑くなる6月でもある。少し高くてもやはり「白き泡」の誘惑には勝てる気がしない。