わが国の経済問題の一つに、労働生産性の低さがあることはよく知られた事実だろう。日本生産性本部の2017年版「労働生産性の国際比較」を見ても、日本の一人当たり労働生産性は8万1777ドルでOECD加盟35カ国中21位と下位に属する
▼GDPこそ世界3位だが、多くの人手と長い時間をかけてそれを達成しているため効率が悪いというわけだ。高度成長期以来のいわゆる人海戦術がいまだ続いている。書店でビジネス書を眺めても、「生産性を上げるには」「なぜあの会社は生産性が高いのか」といったノウハウ本が目立つ。少し前に一世を風靡(ふうび)した「おもてなし」本は今どこへである
▼そんな生産性一辺倒の風潮のせいだろうか。LGBT(性的少数者)の人を、子どもをつくらないからとの理由で「生産性がない」と主張する国会議員まで現れた。自民党の杉田水脈氏のことである。『新潮45』(新潮社)8月号に、LGBTへの行政支援は度が過ぎるとの趣旨の一文を寄せたのだ。税金の使途は緊急性を勘案して公平に決めるべきとの氏の意見は分からぬでもない。ただ、そこでLGBTを持ち出し、生産性という無機質な数量概念に閉じ込めてはいけなかった。本来は一定条件下で使う経済用語を、そのまま人間に当てはめる愚を犯したのだろう
▼とはいえ生産性向上に追われる現代の職業人は、これに限らず費用対効果、効率化といった経済用語を何でも切れる伝家の宝刀と勘違いし、家庭や学校、人間関係などで安易に振り回しがちである。「もって他山の石とせよ」か。