数々の名作ドラマを生み出した脚本家の向田邦子さんは、同じ脚本家でも男性と女性では場面の作り方が違うと感じていたそうだ。『無名仮名人名簿』(文春文庫)に書いている
▼例えば激しい家族げんかのシーン。男性脚本家は物をぶつけたり膳を引っくり返したりと派手に物を壊す展開に仕立てがちだが、女性はパンや雑巾を投げつけるのがせいぜい。理由は、「女は、勿体なくて物がこわせない」からだという。なるほど女性は気に入って買った茶碗など、怒って一度手にしても置き直しそうだ。そこへいくと男性は見境がない。壊してしまった後で悔やむのが常である。ことさら性別の違いを強調するのが適切でないのは分かっているが、やはり小池百合子東京都知事も女性だったということだろう
▼築地市場を豊洲に移転する問題で、築地も豊洲も両方残す方針を表明したのである。もったいなくてどちらかを壊すなんてできないと考えたのではないか。東京五輪を見据えてか、まさにウルトラCである。まず豊洲移転を実現し、5年後をめどに、築地を市場機能も備えた「食のテーマパーク」に衣替えするのだとか。選択と集中でなく、あれもこれも。さすが東京。よほど台所には余裕があるとみえる
▼東京都議選がきょう告示される。投開票は来月2日だ。豊洲移転には一応のけりをつけ、「都民ファーストの会」の準備も整った。いよいよ小池劇場最大の見せ場である。小池氏は自民党を壊す脚本作りを終えているはず。もったいないなどとは考えてもいないだろう。さて都民の審判やいかに。