ギリシャ神話に登場するテュフォンとエキドナの娘「キマイラ」はライオンの頭、ヤギの胴体、大蛇の尾を持って生まれた怪獣である。執念深くどう猛で疲れ知らず。しかも口から猛烈な火を吐く。国中を暴れ回り、人々に大層恐れられていたそうだ
▼このキマイラ、もともと古代ヒッタイト王国では聖獣と敬われていたらしい。ライオンが春、ヤギが夏、大蛇が冬を表し、合体することで調和を象徴していたという。人の心が変わったのかそれとも社会か、はたまたその両方かは分からないが、時代が移れば善だったものが災いに転じることもある。さてこちらのキマイラも、どうやら当初想定された通りの聖獣のままではいられなかったようだ
▼厚生労働省のことである。自民党が今月にも分割の検討を求める提言を安倍首相に渡すそうだ。日本経済新聞が2日、伝えていた。縦割り行政の弊害除去と事務効率化を目指し2001年に合体した厚生省と労働省は、以後度々怪獣のごとき姿を国民にさらしている。少子高齢化の急進といった背景はあるものの、自らの巨体を持て余し社会を混乱させてきたのも事実。消えた年金記録は言うに及ばず、少子高齢化や介護・福祉、働き方改革などいずれの懸案も対策はスピード感に欠ける
▼心配なのは怪獣化したキマイラが厚労省だけでないことだ。文部省と科学技術庁が合体した文部科学省も、組織的天下り、贈収賄、横領と、昨今不祥事が続く。この2省に限らず01年の再編で調和の聖獣になれなかった省庁は、ここらでいったん退治されるのもやむを得まい。