遠い歴史のことを考えるとき、自分の頭の中には出来の悪い紙芝居のような中身しかないことに気付きいつもがっかりする。ほとんどが教科書で学んだぶつ切りの知識だけだからだろう。実際は古代にも、今と変わらぬ生き生きとした人々の暮らしがあったはずである
▼そんな紙芝居の知識に命を吹き込んでくれる朗報が飛び込んできた。「海の正倉院」とも称される沖ノ島(福岡県)の世界遺産登録が決まったのだ。ポーランドで開かれているユネスコ世界遺産委員会で、9日に決議された。区分は文化遺産で、「一覧表」に記載される名称は「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。古代祭祀(さいし)の変遷を示す4世紀から9世紀の間の考古遺跡が、ほぼ手つかずの状態で現代まで残されているという
▼興味深いのは、この国家的祭祀が対外交流のための海上安全を願うものだったことである。文化や技術を求め、精力的に新羅や高句麗といった朝鮮半島と行き来していた当時の人々の姿が目に浮かぶ。その時代、平和な交流ばかりでなく戦いや中国の政変による渡来人の大量流入もあった。いずれも日本が国として成立する上で大きな役割を果たした出来事である
▼安倍首相と文在寅韓国大統領が先週、初会談を開き、交互に相手国を訪問する「シャトル外交」の再開で一致した。せっかくだから慌てずじっくり取り組もうではないか。日韓は時に友好を深め、時にぶつかりながら互いを成長させてきた。折しも世界遺産登録が決まった「沖ノ島」は、そんな密接な歴史を証明するものでもある。