悟空上人と聞いて分かる人はまずいなかろうが、「心頭滅却すれば火もまた涼し」を知らない人はいないだろう。夏の今頃、上人が強い日差しを避けることなく座禅しているのを見て、漢詩人杜筍鶴が作った詩だという
▼気合の入る言葉だが、当方など今だ心頭を滅却できたためしがない。最近も外では「暑い暑い」とぼやきながら日陰を選んで歩き、屋内ではあまり動かず暑さが過ぎ去るのを待っている始末である。作家小林信彦もやはり心頭を滅却できないたちだったようで、寝つきが悪いため、暑いと「あらぬ妄想に妄想を重ねて、とまらなくなったり」したそうだ。エッセイ「真夏の家族たち」に書いていた。先の漢詩を模して言えば「心頭妄想すれば夜もまた長し」というところ。覚えのある人も多いだろう
▼札幌管区気象台がおととい、向こう1カ月の長期予報を発表した。残念ながら暑さの手が緩まることはなさそうだ。気温は全体に高めで推移し、22日以降1週間はジメジメした日が増えるらしい。とはいえ久々の連休だ。もうすぐ学校の夏休みも始まる。親の寝不足や疲れなど知らず、子どもたちは「遊びに連れて行け」と雄たけびを上げよう
▼小林氏はエッセイにこうも記していた。「今現在、子供たちとの旅で慌しい思いをしている方、あなたはとんでもない幸せの真只中にいるのです」。子どもと遊べる期間は案外短い。暑さごときにその機会を奪われるのではつまらない。ただ熱中症で倒れては話にならぬ。ここはできぬ滅却でなく心頭冷却で乗り切りたい。水分と塩分も忘れずに。