戦前の児童文学界の第一人者、小川未明の童話に「赤いろうそくと人魚」がある。ご存じの人も多いだろう。とある町に住むろうそく売りの老夫婦が人魚の赤ちゃんを拾って大切に育てる話だ
▼人魚が驚くほど美しい娘に成長したころ、一人の香具師(やし)が見世物にするから売ってくれとやって来る。老夫婦は大金に目がくらみ人魚を渡してしまう。それからは海が荒れるようになり、海難事故が相次ぐのである。老夫婦の優しさはメッキで、金の亡者が地金だったというわけ。地金とはその人の隠された本性だから、それがあらわになると他人に付け込まれやすいし自分の脇も甘くなる。見ていると最近の安倍首相も、また地金を出して失敗しているなと思わずにいられない
▼まず稲田朋美氏のことである。28日、持ちこたえられず防衛相を辞任したが、異例の抜てきまでして入閣させた首相は最後まで稲田氏を守ろうとした。戦後日本の自虐史観否定など首相と思想信条を同じくすることがその理由らしい。国有地の安値払い下げが疑惑を持たれた森友学園問題もそう。どうやら空騒ぎだったようだが、もともと道徳教育を重視する籠池理事長の教育方針に首相が共鳴したのが発端である
▼デフレ脱却に力を注いでいるうちは良かった。ところが地金であろういわゆるタカ派的性格が出ると足元をすくわれる。「戦後レジームからの脱却」をうたい文句にした一次内閣時と同様でないか。あさってには政権浮揚を期して内閣改造が行われるという。さて新装安倍丸の行方は安定航海か、それとも難破か。