きょうは「山の日」である。去年設けられた国民の祝日だが、お盆と並んでいるためか少々影が薄い
▼ただ深田久弥氏が著書『日本百名山』に「日本人ほど山を崇び山に親しんだ国民は、世界に類がない。国を肇めた昔から山に縁があり、どの芸術の分野にも山を取扱わなかったものはない」と記している通り、古くから日本人と山との関係は深く濃い。今回は山にちなんだ言葉を紹介し、「山の日」に色を添えたい。最初にアイガーなど世界三大北壁の冬期単独登山を成功させた長谷川恒男。「みんなの中に、きっと北壁があると私は信じている。その壁に向かって努力している人は、きっとまた新しい壁を見つけるだろう」。誰もが汗をかきながら、心の中の自分の山を登っている
▼次に夏目漱石の『行人』から。「君は山を呼び寄せる男だ。呼び寄せて来ないと怒る男だ。(中略)。そうして山を悪く批判する事だけを考える男だ。なぜ山のほうへ歩いてゆかない」。来ぬことに怒るのでなく自分が動くべき。続いて世界7大陸の最高峰を登頂した女性登山家田部井淳子さん。「知らない山では近道を選んではいけない」。楽そうに見える道には思わぬ落とし穴がある
▼石塚真一氏の山岳漫画『岳』で主人公島崎三歩が遭難者らにまず掛ける言葉。「良く頑張った」。つらいとき、ねぎらいの一言に勇気が湧く。最後は食生態学者西丸震哉氏の仲間との会話。「山なんか登るやつはバカだよ」「あしたっからはバカになるんだなあ」。二人はきっと笑顔だろう。人生、ばかなことほど面白いことはない。