直後の無残な光景をテレビや写真で目にした人なら誰でも、たった1年余りで、と驚きの念に打たれたのではないか。274号日勝峠のことである
▼昨年8月の台風で甚大な被害を受けて以来通行止めが続いているが、10月末開通のめどが立ったそうだ。道開発局などが発表した。幸い道東自動車道が当面の機能を肩代わりしてくれてはいる。ただ道央と道東を結ぶ大動脈が切れたままというのは、心細いものだった。ここに至るまでにはどれだけの技術と労力がつぎ込まれたのだろう。動脈手術の本家で、天皇陛下の冠動脈バイパス手術も執刀した天野篤順天堂医院心臓血管外科科長の言葉を思い出す。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でこんなことを語っていた
▼「常に『ばか』がつくぐらい実直にやってますよ。一途一心という気持ちで」。ごまかしなしが信条だそう。陸の動脈たる日勝峠の復旧を担当した建設関係者も、同じ思いだったに違いない。遅れるとそれだけ地域の体力は奪われていく。多くの箇所で土砂崩れが起き、地盤ごと消失した道路もあった。流された橋もある。傷は大きく深く、状況は絶望的だったと言っていい。それが生活や物流、観光の要衝としてにぎわっていた日勝峠の変わり果てた姿だった
▼ところが調査・測量・設計、資機材や人の手配を経て着工したにもかかわらず、わずか1年での開通である。現場は山中で難所ばかり。絶妙なメスさばきがあったのだろう。関係者の熱意と技術力には全く頭が下がる。大手術を乗り越えた地域にもようやく笑顔が戻ろう。