風采の上がらぬ中年男性ウォルター・ミティ氏には空想癖があり、何かきっかけがあるとすぐに心が現実から離れてしまう。車を運転していると海軍飛行艇の勇気ある大佐となり、手袋をはくとすご腕の名医になるという具合
▼といってもこれ、実在の人物でなくジェイムズ・サーバーのユーモア短編「虹をつかむ男」に登場する男性である。普段の生活がパッとしないからか、必ず自分を英雄に仕立てるのが特徴だ。もしかするとミティ氏と同じ空想癖があるのかもしれない。写真用にポーズを決めると世界を手玉にとったつもりになり、脅しを口にすると米国が恐れをなして許しを請うてくる気になり…と。金正恩朝鮮労働党委員長のことである
▼北朝鮮がきのう午前5時58分、また弾道ミサイルの発射を強行した。しかも本道上空を通過し襟裳岬の東方約1180㌔の海上に落下したそうだ。朝早くからスマホなどの緊急速報メールや全国瞬時警報システム「Jアラート」に安眠を破られた人も多かったろう。今回は日本に事前通告なしの奇襲だった。安倍首相も談話で述べていた通り、「これまでにない深刻かつ重大な脅威」だろう。米国を気にしてグアム方向を避けたことで、逆に日本への攻撃能力は確かだと強く印象付ける結果になった
▼金氏は今、こう思い描いて笑っているかもしれない。核兵器とミサイルを万全にした暁には国際社会で確固たる地位を築ける。それを実現した自分は国の偉大な英雄だ―。そうはいかない。ばかげた空想がすぎた。現実の国際社会は包囲網を一段と狭めよう。