不況にあえぐ出版界の中で数少ない売れ筋として気を吐く分野にコミックエッセーがある。体験談を漫画仕立てにしたものと言えばお分かりだろう
▼最近は芸人矢部太郎さんの『大家さんと僕』が「手塚治虫文化賞」を受賞して話題になった。近年注目を集めた作品も小栗左多里さんの『ダーリンは外国人』、井上純一さんの『中国嫁日記』、蛇蔵&海野凪子さんの『日本人の知らない日本語』と枚挙にいとまがない。今や一大勢力を誇るこのコミックエッセーのはしりとされているのが漫画家さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』である。1986年に少女漫画雑誌『りぼん』で連載が始まった。すぐに読者から絶大な支持を得たという
▼子ども時代の思い出を小学3年生の「まる子」を通して描いた作品で、70年代の昭和を舞台に自由だが少し自虐気味なまる子と個性豊かな友人たちがドタバタ劇を繰り広げる。フジテレビ系で放送中のアニメを家族そろって楽しんでいるという人も少なくないのでないか。おととい、そのさくらさんが15日に亡くなったと事務所が公表した。53歳だったという。早過ぎる。訃報に接し絶句したのは筆者だけでなかったろう
▼さくらさんには優れた文字エッセーも多いが、その一つ『あのころ』にこんな一節があった。「私はいつもたいがい元気ですが、そりゃ時にはガックリすることだってあります」。そんなときにはとことん考え見つけた方向に突っ走ることで元気を取り戻してきたのだそう。われわれは作品に触れることでいつも元気をもらっていた。ありがとう。