こんな境地に至れたら素敵だろうなと思いながら読んだ詩である。作品名は「電車の窓の外は」。闘病中だった高見順が自らの死の近いことを知り、書いた詩だという
▼こんな一節が印象に残っている。「この世ともうお別れかと思うと 見なれた景色が 急に新鮮に見えてきた この世が 人間も自然も 幸福にみちみちている」。人生が終わりに近づいたとき、この詩人には世界ががらりと変わって見えたらしい。15日に75歳で亡くなった女優の樹木希林さんもかつて、この詩とよく似た心境を語っていた。乳がんが見つかってから数年後、2009年2月20日付の産経新聞インタビューで病気について聞かれ、こう答えていたのである
▼「がんはありがたい病気よ。周囲の相手が自分と真剣に向き合ってくれますから。ひょっとしたら、この人は来年はいないかもしれないと思ったら、その人との時間は大事でしょう」。残された時間の少なさが、見なれたものの本当の価値に気付かせてくれるというわけだ。この話題が気になったのは、日本の高齢化が急速に進行しているためである。総務省が敬老の日にちなんで発表した「我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上人口は28.1%と過去最高。70歳以上も初めて20%を超えた
▼物事の本当の価値を見極められる人がそれだけ大勢いらっしゃる、と言いたいところだが…。実際には歳をとっても誰もが高見さんや希林さんのような心の高みに到達できるわけではない。せめて文句ばかりの老人にならないよう筆者も今から肝に銘じておきたい。